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教会を作っている
ソロの骨董市で見つけた横幅120センチくらいの古いベンチ。
1枚の板に4本の脚と若干の補強を付けた素朴な構造で、決して高い品質のものではない。
しかし長年使い込まれた木肌は摩擦によってツルツルに磨き上げられ、誰かのイニシャルと思われるアルファベットが彫られたり、無数の細かいキズがついていたりして、時間が作った風合いが良い。
だがそれは売り物ではなく、ある店の裏に置いてあり、自家用に使われていた。
その店の主はおばあさんで、いつも最初は無茶苦茶な値段をふっかけてくる。
だんだんと歩み寄ってきて、最後は落ち着くところに落ち着くのだが。
「そのベンチ、いくら?」
ためしに訊いてみた。
どんな値段を言ってくるのか、少し楽しみ(?)もあった。
答えは意外にも
「コレは売り物じゃない」
だった。
こちらが買う気を見せるとモーレツにプッシュしてくるおばあなのに…
理由はこうだった。
そのベンチは 『メモリー』 だから。
娘が子供のころ、学校から帰ってくるとそのベンチをテーブル代わりにして宿題をやっていた、と言う。
その娘が今はどうしているか聞かなかったが、そのほかにもさまざまな記憶の詰まったベンチなのだろう。
ニッポンなんかに持って行かれたらたまらないよう、という顔をしていたのを思い出す。
小松にお住いのS様が横幅70センチのミニベンチをご購入くださった。
もとは高さが43センチあるそのベンチを18センチにカットしてほしいとのことだった。
まだ幼いお嬢さんが自分で靴を履くときに座る台としてお使いになるそうだ。
玄関の壁にぴたりと収まるよう天板の片側はストレートに切った。
S様邸の玄関で小さな女の子がちょこんとミニベンチに座り靴を履く姿が目に浮かぶ。
子供の成長は早い。
このミニベンチがお嬢さんの靴履き用として使われる期間はそう長くはないだろう。
おそらく数年もたつと本来の役目は終え、別の用途に使われるだろう。
だがそこに『メモリー』は残る。
いつか、ご両親はこの小さなベンチを見てお嬢さんの成長を感じるだろう。
お嬢さんは 『自分が小さかった頃にお父さんとお母さんが自分のために作ってくれた小さなベンチ』 のことを思い出す。
そのお嬢さんも大人になり、やがて嫁ぎ、子供ができる。
その子が自分で靴を履けるようになったとき、実家から持ってきた、キズがたくさんついた小さなベンチを使う。
こんなことを想像させてくれる家具は、だから面白い。
私たちは家具を作っているが、メモリーも作っている。
レンガ職人が二人いる。
新しい教会を作るためにレンガを積む。
ひとりのレンガ職人に、今何をしているのか問う。
彼は 「レンガを積んでいる」 と答える。
もうひとりのレンガ職人に同じ問いかけをする。
彼は 「教会を作っている」 と答える。
同じ仕事をしているように見えるが、同じではない。